20代の後半はパリにいた。 今はもうない某日系ホテルのレストランでメートル・ド・テル(給仕長)の職に就いていた。 当時のフランスは社会党政権だったし、もともと労働者には厚遇の国で、給料は安かったがそれなりに暮らしていけたし、当時の日本とは比べられない程に休みが多かった。 とにかくフランスは豊かだった。 それは日本とは違う意味で・・。
入ってくるお金はほぼ全て「食」に使った。 あちこちが休みのたびに立つマルシェは魚以外の農産物は新鮮で叔父もよく自炊が楽しかった。 休みのほとんどは「食べ歩き」の時間と同義語だった。 休みの前の日課はこうである。 まずは足を伸ばして入れるアパートのユニットバスにぬるめの湯をためる。 たっぷりではなく、体がギリギリ浸かるくらい。 冷蔵庫から小瓶のクローネンブルグか、なければ飲みかけのペットボトルのロゼワインをコップにドボドボとついで風呂に入る。
バスタブの横には2冊のギドルージュ(ミシュラン)と2冊のギドジョーヌ(ゴーミヨ )、2冊づつあるのは今年の分と去年の分の見比べである。 そうぬるめの湯に1時間、下手すると2時間は浸かりながら次の休みのレストランを探していたのである。
連休であれば車を借りてシャンパーニュやブルゴーニュはラクに許容範囲だった。 泊まりの場合は犬がいたので犬連れOKかどうかも重要な部分で、そこはちゃんと赤も黄色も買いてある。
それから時は無情に流れて30年が過ぎようとしている。 自分が日本でレストランのオーナー兼メートル・ド・テルとしてこのガイドブックに評価されようとは夢にも想像できなかった。 何がどこでどうなるかわからないから人生はおもしろいのだよ。
Kaz
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